オトススメMtoO






Ned Doheny / Hard Candy

■ドヒニーのセカンドアルバムで76年作。プロデューサーにスティーヴ・クロッパーを迎えてこの後の彼の方向性を定めた名盤。
■ジャケの好き嫌い(笑)もあり10年ぶりくらいにふと聴きたくなって引っ張り出してきたのですが、ジャケに象徴されるウエストコーストAORのさわやかさというよりは、ネッドの線の細いファルセットが適度にソウルフルなサウンドの中で、か細いというよりも繊細な気遣いのように感じられじんわりと肌に/心に響いてきて癒されました。
■春日のぽかぽかの中でとても贅沢な時間だったといえます。



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MONKEY MAJIK/空はまるで

■初めて聞いたMONKEY MAJIKはウェストコーストサウンドにHIPHOPを巧みにブレンドしていてとても心地よく、今の秋晴れの空にすごくマッチしています。青空の下で一日中聞いていたいくらい。



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mama!milk / abundant abandon!!

■ひさしぶりにすごい音楽と出会ってしまった、mama!milk、10年も活躍しているので知っている方は知っているのだろう、こんな極上の音を知らなかったなんて恥ずかしいです。
■mama!milkはアコーディオンとウッドベースのコンビ、どこかのモノクロな映画音楽のような音をつむぎだしているのだが、それがまたいい。アコーディオンというとピアソラか!と思うがそんなに熱くない、ミュゼットのように叙情的でもない。割と淡々とした音をしているのだけど、そのひんやり感がとても心地いい。冷たい美女のような肌触り、抱きしめても抱きしめてもどこかで赤い舌をペロっと出している感じ。そんな女に夢中になったら人生破滅だべ、って思っていたらやはりアコーディオンは生駒祐子という女性だった。
■昨日深夜にJ-waveでライブが流れていたので急いでCDを借りに行って来た、手に入れたのはabundant abandonという99年のデビューアルバム(廃盤)、2人の演奏にヴァイオリン、クラリネット、パーカッションというゲスト。退廃的な組み合わせだなあ、ただ、こういう楽器の組み合わせだとパリの叙情か東欧のエキゾチックかベルリンの猥雑さに寄って行くのだけど、どこでもない感じ、強いて言えば青山CAY(笑)。楽器だけで表現したあがた森魚、70年代のムーンライダーズの音を今の岡田徹が表現しなおしたインストバージョン、80年代の上野耕路が肩の力を抜いて楽しんだ音…「日本」なんだなあ。
■これは久し振りにはまりそうだ。。。!



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Maria Muldaur / Swingin' in The Rain

■98年に発表されたこのアルバムはOn the Sunnysideに続くマリアのグッドオールドキッズミュージックシリーズです。90年代以降のマリアはブルーズ、ジャズ、オールドミュージックと色々なジャンル別にアルバムを発表しております。そのひとつなのですがタイトルでわかるようにSingin' In The Rainなどのスインギンなミュージカルサウンドを13曲詰め込んでいます。
■何の新しさやひねりもなく、ただ単にこういう音楽を楽しみたいのだ、というマリアの姿勢が良くわかり、聞いている方も安心して聞けます。疲れているときはこういう安心できる音楽がいいですね。安心できるのにちょっとウキウキ、水溜りの上を歩くのが思わず楽しくなっちゃいます。マリアのちょっとしゃがれたグランママっぽい歌声がとってもキュートでうれしくなっちゃいます。

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Maceo Parker / Dial Maceo

■Maceo Parkerはとてもジャンル分けしづらいアーティストだ。「なんで? Funkじゃん」って思う人も多いかもしれない。しかしMacioの曲を聴く限りにおいて、とてもFunkだと言いきれないものがある。ましてこのアルバムDial Maceoは、誰の作品か判らない状態ならば、良質なJazzFunk/Fusionのボーカルアルバムだといわれてもうなづいてしまうだろう。
■ ショップにおいて、Maceoのアルバムはとかく探しづらい。R&Bコーナーにある場合が多いが、FusionだったりJazzだったりすることもある。R&Bコーナーでも「M」にあることは稀れであり、P−FUNKのコーナーにあったり、James Brownの棚で見つかったりする。たしかにJB'sやP-FUNKでの活躍が彼の知名度を上げることにつながったのは否めない事実だし、Liveでもそれらのユニットの楽曲を自分の持ち歌として聴かせてくれる。しかし、Maceoは本当にFunkの括りのみで考えられるアーティストなのだろうか?
■ 本格的な彼のソロプロジェクトは90年のRoots Revisitedに始まると、僕は考えてる。70年代のソロはいい得てみればJB'sの別働隊だ。そしてその90年代のソロアルバムは古き良きR&Bの回顧から始まっている。JBやPーFUNKの熱く脂ぎった音とは違い、Maceoのソロはとてもソフィスティケートされてる。その洗練さにはFusionアーティストのそれのような感じがする。しかしSaxの音色はあくまでFunkyに「Blow!」している。歌声はR&Bのそれだ。そうやって見なおすと、このサックスプレーヤーの存在はFunkだけでもFusionだけでも語れない、本当のクロスオーバーだろう。
■ このアルバムDial Maceoには、P-FunkやJBの影は全く見えない。FredもPee Weeの姿もない。その代わりになぜかPrinceやSheryl Crow、Isley BrosやMcCartneyの名前が見える。そんなことが関係ないくらいこのアルバムはFunkyでゴージャスでPOPで緻密な作りだ。すでにMaceoはいままでのFunkカテゴリーで語る必要のないアーティストなのであろう。Bootsyも90年代に入った頃から、暑苦しさよりソフィスティケイトされた音になってきている。P-Funkの行きつくところはJazzFunkなのだろうか。。。それにしてもこのアルバム、最初のダイアル音には苦笑してしまう。。。

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Olu Dara / In the World: From Natchez to New York

■アート・ブレイキー、オリバー・レイク、アラン・トゥーサン、ボビーウーマックなどとも共に長年音楽に携わり、56歳になっての初リーダーアルバム。こういう人生の澱を積み重ねた人の音楽ってどれもみんな優しいですね。欲も名声も通り過ぎたからでしょうか? JBみたいに若い頃からトップでやっているガツガツギラギラした老人もいますが、ある程度年齢を重ねてからデビュー(パッケージとしてのデビュー)した人は、みな本当に音楽が好きで好きでたまらなくて、その愛情が昇華した状態でアルバムを作るから優しさにあふれたものになるんでしょう。
■オルダラのファーストはかなりアコースティックです。基本はブルーズで、カリビアン、アフリカ、ニューオリンズ入ってます。タジ・マハルのもっと飄々とした感じというのが近いかな。ジャズな曲も全然ジャズじゃないです。本業のコルネットやトランペットもとても味があって素晴らしいですがどちらかというとボーカルメインでホーンは楽曲の邪魔にならない程度に鳴っています。
■ギターがとても歌にあっていて気持ちいいです。Kwatei Jones-QuarteyとIvan Ramirezの二人が主にギターを弾いているのですが(オルダラ自身もギター、ベースにドラムもやっています)、このギタリストたちが奏でる乾いた音と、オルダラの飄々としたボーカルのミックスが、有り余るほどのユルユル感を表現しています。ユルユルしてて温かい、本当の意味の癒し音楽です。エンドレスでこのアルバムに浸りたい。(オトシャベリより改稿)

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Oily Rags / Oily Rags

■Chas & Daveの前身で、ブリンズリーやヘルプスとは違った形でUK The Bandフォロワーとして噂されたオイリーラグス、唯一のアルバム。The BandやLee Dorsey(作曲はAllen Toussaint)の曲を取り上げるなど南部への強い愛情を示しているが、曲調はフォーキースワンプといったかんじ。多少湿り気にあるアーシーサウンドがなかなか心地よい。
■オイリーラグスはCharles Hodges(P、G)とDavid Peacock(B)のデュオで、参加は他にはギターとドラムスのみ。プロデュースはジャズレーベルのFlyng DutchmanのBob Seal。ボブの手腕なのか後のChas & Daveのアルバムよりもタイトな音作りになっている。隠れた名盤、世界初CD化。フォーキーやアーシーな音が好きなら必ず聴くべき一枚、本当に名盤です。

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Nick Drake / Made To Love Magic

■デビューアルバムが4000枚しか売れず、その後2枚リリースするも失意のうちに逝去するという不運の人Nick Drake。彼の04年に発売された未発表アルバム。それは海賊盤などにも発表されてなかった曲や、Nickの最初の希望を考慮して再アレンジされた部分を新録・オーバーダブした2曲を含む13曲。先行シングルのMagicは本国UKでチャートインされたらしい。30回忌にぴったりのアニヴァーサリーイヴェントとなった。
■ギター弾き語りのみの曲を中心とした配置の中に新録のストリングスはわりとうまく溶け込んでいるといえる。ただ、真摯さを感じさせる彼の音作りにこの耽美なストリングスが相応しいかどうかといわれるとちょい疑問。美しすぎるストリングスと朴訥なボーカルのコントラストが現在のRufus Weinrighjtのように聞こえてしまう部分もある、だから今風でチャートインしたのかもしれない。逆に不気味に響き渡るコンガを配している#8などの方がNickの歌をダイレクトに伝えるにはいいと思う。
■重く切々と唄うNickのボーカルには説得力がある。しかし、この音はもし街中で流れてきたとしても、いったい何人の歩行者の歩みを止められるのかといわれるとはなはだ不安だ。それくらい地味な音だ。それが70年前後の喧騒の中で取り上げられずに埋没してしまったのも納得がいく。人々が希望にあふれ、前進するための強い牽引力となるモチベーションを持っている時にはこの訥々とした語りは不要だ。しかし人々が立ち止まり、我に返って往く道を逡巡しているとき、彼の真摯な想いはとても効果的に人々の耳に届くのであろう。この音の中に喜びを見つけられた人は幸福かもしれない。思い悩む自分がたった独りではないことを気付かせてもらえるのだから。 (オトシャベリより改稿)

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Nick Lowe / Labor Of Lust

■パブサーキットの中心バンドだったブレンズリーシュワルツの牽引役で、クラッシュやコステロを見いたしたことでパンク/ニューウェイヴの生みの親という歴史的存在のニックロウが、ほんの一瞬自らがポップスターになる可能性を感じることができたアルバム。79年発表。
■彼のポップ感覚は非常に優れている。誰もがワクワク楽しくなれるであろうメロディと癖のない甘く能天気な歌声、シンプルなアレンジのどれをとってもポップスターダムにのし上がれるだけのものを持っている。しかし何故だか彼はとても地味な印象を与えてしまう。彼の曲には聞くものに3分間の夢を持たせるだけのゴージャスさがないのだ。そこが名プロデューサーや稀代のコンポーザーではあっても自らがスターになれなかった最大の理由だろう。
■しかしこのLabor Of Lustにはささやかではあるが夢がある。ポップスタンダードにもなったCruel To Be Kind、Cracking Up、Born Fighter、Skin Deepなど彼の音楽の中ではかなり野心的でゴージャスそして聞くものをを巻き込むようなチューンにあふれている。実質的にRockpileとしてのアルバムというバンドサウンドらしさの効果もあるのだろうか? この路線を突き進めばニューウェイヴ全盛の時代にあっても彼はポップスターになれたのかもしれない。しかしデイヴ・エドモンドと袂を分かったロウは再びソロの音に戻っていく。難しいものだ。

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西岡恭蔵とカリブの嵐 / 77・9・9京都「磔磔」

■ちょっと前から気になっていた西岡さん、ディランのフォークさと細野晴臣さんのカバーをタイトルにした「ろっかまいべいびぃ」以降の中南米風味の両方が味わえるのがこのライブアルバムだ。タイトル通り77年の京都でのライブ。未発表音源とMCを加えたトータル版だ。
■彼の音はフォークムーヴメントから出てきた割にはそんじょそこらのシティポップス以上のタイトなリズムを感じさせる音で、そこに味わい深いがなんかとぼけた傍観者然とした歌がかぶさるのが魅力のひとつだ。飄々と歌う情景詩なのにとても愛情深く感じる名曲メドレー「街行き村行き〜プカプカ〜占い師のバラード」がもっとも聴いてほしい。そして久保田麻琴や細野さん以上に愛情深くディープサウスを歌い上げる「ミシシッピーリバー」、Disc2にいくとパーカッションのリズムから始まる中南米ワールドを堪能できる。ここでも彼の歌声は愛情に溢れている。彼は中南米のビートや自然も好きなんだろうけど、それ以上にそこに生きる人々に惚れてしまったんだろうなということが分かる。
■「人」西岡共蔵の懐の深さと愛情の温もりを感じられるアルバムだ。

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三上寛 / ひらく夢などあるわけじゃなし

■三上の72年のメジャーデビューアルバム「ひらく夢などあるわけじゃなし」を一言で語るなら再発されたCDの帯の言葉最高かもしれない:怨歌+小林旭+シュールレアリスム
■この歌声は忘れられない。ただ張り上げるだけの昭和歌謡、どう考えても陳腐なだけの民謡節にありったけの不条理や怒りや怨恨を詰め込んだアルバム。女性への妄想ばかりで張り裂けそうになっている思春期の少年の下半身や、金や暴力によってひさがれた少女の黒く濁った出血や、生活のために身体を売る母親を見る子供の心や、そんないかんともしがたい/場合によっては腹立たしい現実の滓ちりばめられている。聴けば聴くほど胸糞悪い、しかし気づくと口づさんでしまっている。三上はすごい。

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南佳孝 / 摩天楼のヒロイン

■摩天楼のヒロイン、シティポップス界の伊達男、南佳孝73年のデビューアルバムだ。南氏のコメントでは当時10数曲書き溜めていたそうだが、プロデューサーの松本隆と「今巷に流れている、演歌やフォーク・ソングの暗さや湿り気とは違った、都会的なクールなものを作ろう」ということになり、ほとんどを書き直したトータルアルバムだったそうだ。
■国内ではフォークから叙情派へ、海外ではツェッペリンやクリムゾンが謳歌していた73年のトータルアルバムとしてはあまりにもヨーロピアンで、あまりにも大人びている。AORやアダルトコンテンポラリー、フュージョンなどという言葉が生まれるずいぶん前にこんな洒落た音を作る東洋人がいたことを世界はもっと知るべきだと思う。


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Norman & Nancy Blake / Morning Glory Ramblers

■「オー・ブラザー」で再注目されたカントリーの大御所、今回のアルバムは愛妻Nancyとのコラボシリーズだ。
■対になったロッキンチェアーで手を握りながら見つめあう二人の老人。こんな人生を迎えたいねえなんて思うのは僕だけか?
■とっても優しげなフィンガーピッキングを弾き語るノーマン、そしてそこに寄り添うような控えめなコーラスワークを聞かせるナンシー、本当にほっとします。生きてるって、愛し合ってるっていいなぁと思ってしまいます。
■とても新作とは思えないほど変わらない音がつまった全17曲、そのラストにちょっとビックリ。それは聴いた人だけのお楽しみってことで。名盤というよりは一生親しみたい一枚です。

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Meic Stevens / Outlander

■マシュー・グリーンウォルド氏がレコードコレクターズ誌で連載の「Letter From L.A.」で「2003年リイシューアルバムベスト10」で4位に選んでいたMeic Stevens。彼の70年のメジャーデビューアルバムがRhinoHandmadeから限定2500枚でリリースされた。
■「the 60s Welsh psych-Dylan」(60年代ウエールズのボブディラン)と言われ「Welsh Van Morrison」(ウェールズ版ヴァンモリソン)を求められた彼、デビュー曲が後のLed ZeppelinのJohn Paul JonesだったりSyd Barrettと親交が深かったりと音楽自体以外の話題には事欠かない。
■音楽自体はというと、主は弾き語りフォークだ。訥々とした唄い口とオルガン等のアレンジの仕方が本当にディランやデビュー当時のポール・サイモンを聞いているような気になる。そしてシタールが飛び回るアシッドサイケ曲も持ち味としてはいい。ぼく的にはアシッド系はビートルズの頃から苦手なので評価はしないが、荒涼とはしているが気品のある風景画を描き出すのに一役かっている。
■しかし古びた宝刀の感のあるアシッドサイケよりもフォーク部分に21世紀なら焦点を当てるべきだろう。ウェールズというひなびた気候の厳しい土地にあって、マイク・スティーヴンスは何を聴いていたのだろうか? ディランやザ・バンドらが向かっていたカレドニアの音への憧憬が感じられる。以前イギリスの音が湿っていると書いたが、ウェールズの音は、日本の冬に似て寒くても乾燥しているのかもしれない。「木漏れ日フォーク」とは全く違う、ここには「安息の温もり」ではなく「何かと戦う厳しさ」が感じられる。
■メジャーデビューということもあり数曲を除いて英語で唄っているが、普段はウェールズ語を使う人らしい。そちらもアルバム一枚聴いてみたいものだ。

■右がUS、左がUK。



Malcolm Morley / Lost and Found

■ヘルプ・ユアセルフそしてビーズ・メイク・ハニー、マンとフォーキーで土臭いパブ・ロックサーキットを歩いてきたマルコム・モーリーがマン脱退後の76年、ブレンズリー・シュワルツのイアン・ゴムによるプロディースで制作しながらも、お蔵入りとなってしまった幻のアルバム。
■全体的に爽快で繊細なブリティッシュAORっぽい音を聞かせてくれるこのアルバム、ヘルプスのイメージからは程遠い。アコースティックギターとピアノの涼しげなイントロで始まる#1、まっすぐに確信を持って唄うマルコムの歌になぜか癒されてしまう。ライナーノーツによればこの曲はイーグルスのアコースティックナンバーを想起させるらしい。またタイトル曲はポール・マッカートニーかと思わせるような豊潤なポップスだし、#5はしっとりとジャジーなナンバーだ。#6はギターのカッティングの心地いいR&R、8曲目はカントリー調の小気味いい音。
■一曲ごとに変化して飽きることのないアルバムだが、全体的に潤んだ手触りがするのでAORっぽい感傷的な音に聞こえてしまう。それはやはりイギリスという土地柄が与える音なのだろう。アメリカの大地がはぐくんだスワンピーなフォーキーロックを目指したモーリー、その成果がアメリカでは作りえない潤んだ音、しっとりと聴く者の心に語りかけてくる音なのであろう。マルコム・モーリーという一人のアーティストが完成した瞬間だ。
■しかし残念なことにパンクの幕開けという時代にモーリーの音は歓迎されなかった、彼とは別のタイプの「ロックにおけるロンドンからの回答」が全世界を疾風していく。これほど時代に合わなかった音を信じて20年以上も保管していたイアン・ゴムに、そして自分を信じてつき進んだ一人の音楽家にエールを送りたい。

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Michael Nyman / The Cook the Thief His Wife and Her Lover(OST)

■Michael Nymanというコンポーザーのもっともポピュラーなワークは映画「ピアノレッスン」(Piano、Jane Campion監督)のOSTだろう。しかし、彼の真骨頂は89年に発表となった映画「コックと泥棒、その妻と愛人」(The Cook the Thief His Wife and Her Lover、Peter Greenaway監督)のOSTである。
■ミニマルミュージックの代表戦手として時代を作った彼の音楽スタイルが確立したのは、まさにこのアルバムだ。Nymanのリーダーアルバムやヤマモトヨージとのコラボレーション、Balanescu Quartet等に提供した曲などを通して聴いてみても、この延長線上にある。
■「英国式庭園殺人事件」(The Draughtsman's Contract)以来積み重ねられてきた美への追求の完成。美しく荘厳でしばし狂気地味たマイナーコードの繰り返しが至高の地へ到達した瞬間だ。
■ピアソラのTango:Zero Hourでもしばしば似たような感想をもってしまうが、何かに追い詰められている感覚、自分がとてもとるたらない、くだらない生命体で、アンタッチャブルな意志によってまさに自死を選ばなくてはならない、そんな必要に迫られる音楽である。
■単純なマイナーコードを絶え間なく繰り返す弦楽とそこに斬り付ける管や天使の祈祷のようなボーカル(Have Marcy Upon Me)、それらが私を死へ追いやっていく、速度250キロで急カーブを走るような焦燥感。あくまで単調でむしろ美的でさえあるメロディに、なぜそこまで人の心を惑わす力があるのだろう。昔、ビートルズを聴いて殺人を行なった男がいたが、Nymanの音はもっと危険である。耽美な気狂いへの誘惑を感じさせる名作。是非映像ともどもこの音を浴び、あなたもつかの間の歓喜の世界を味わってもらいたい。本当の美世界がここにある。(オトシャベリより改稿)

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On the Corner with FUZZ / B'Gock!

■Deep Banana BlackoutのリーダーでギタリストのFUZZのソロプロジェクト、99年の作品。ターンテーブルを楽器にしたといわれるDJ Logic、サン・ラー一派で現在はthe Cosmic Kreweで活躍するトランペッターMichael Rayの参加が呼び物か? それにしても熱いファンクが続く。
■まずホーンセクションがいい。ジャズをベースにしたクールなリズムセクションとの絡みでも、ターンテーブル付きの熱いバトルでも、ホーンが全体のポイントを押さえている。締める部分をラッパに任せて主役のFUZZギターはというと、好きなだけ走り回ったり、オルガンと体当たりで技比べをしたりしている。うん、楽しそうだ。
■しかし、FUNK系ジャムバンドがジャズのグルーヴで戦うというのは結局往年のジャズファンクに行き着く気がする。すごくスリリングなバトルプレイだが、一歩はなれて鑑賞してみると、20年前の音の延長線上でしかない。結局ここに行き着いてしまうのだろうか? そろそろ新機軸を出していかないと歴史が繰り返すだけでしかなくなってしまう。(amazonのリンク先、タイトルが間違っているが同じアルバムです。AmazonUSで確認済)

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Maria Muldaur / Louisiana Love Call

■ルーツミュージックの歌姫マリア・マルダーがネビル兄弟やDr.Johnらの協力を得てセカンドラインを歌った92年の名作。本人いわくBluesiana Musicであるこもアルバムは本人の弁通り、ブルージーで妖艶でしかもうねりがある。まさにミシシッピの湿地帯の暑く潤った音がここに復元されている。
■マリアの歌声がここまで妖しく濡れて感じられるのも、セカンドラインとのブレンドの力だろう。Dr.Johnとのデュエットなんて、いやらし過ぎて聴いていられない!

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Maria Muldaur / Maria Muldaur

■マリア・ダマートの歌は気持ちいい。いわゆるルーツミュージックの旗手としてフォーク・ゴスペル・ブルース・スワンプ・スイング・ラグタイム等々を自分の胎内で受精・育成させて生まれてきた美しくもやわらかい音の数々。
■それは彼女の才能だけでなく、Even Dozen〜Jim Kweskin Jug〜Goff&Mariaを通じて磨いてきた表現力、そしてプロデューサーのレニー・ワーロンカーやエイモス・ギャレットを初めとするバックミュージシャンたちの腕力と技術を十二分に活かして作られた音だろう。
■彼女は男性を非常にうまく使っていますね。John Sebastian、Jim Kweskin、Geoff Muldaur、そして上記のAmos、Ry Cooder、Dr.John、Jim Keltner。。。彼女の周りにはいつもとても優秀なミュージシャンがいて彼女を引き立ててくれる。それは彼女が女性として・人としてとても魅力的なことを現しているのだろう。アーティストなんて男女関係なくライバルなのに、みんな彼女のサポートを快く引き受けているようだ。そんな快さが音としての心地よさにもつながっているのかもしれない。
■一番好きなのは、やはりファーストMaria Muldaurだな。近頃セカンドのドーナッツショップのほうが玄人(なんの?)受けが良いらしいが、やはり19歳の時に夢中で聞いたこのファーストがボクにとっては一番だ。RyとDavid Lindleyのギターが心地いい1曲目から爽やかにまどろんでいるような「真夜中のオアシス」を含め、名曲The Work Song、フィドルが効果的なDanHicks作のWalkin' One and Only、Dr.John作のブルースThree Dollar Bill等々、ゆるくて繊細で楽しい曲の数々が、Lenny Waronkerによる新人育成技(笑)によってきちっとまとまっている。 (オトシャベリより改稿)

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The Moonlighters / Live in Baden-Baden

■オールドタイミーなハワイアンアコースティックスイングを、絶妙な男女混合コーラスワークで表現するムーンライターズ(ムーンライダースではない!)の3枚目、ドイツでのライヴ録音である。
■前2作もなかなかのものだが、このライヴの音のはねっぷりといったらないね、彼らと親交のあるHot Club Of CowdownやAsylum Street Spankersなどを彷彿とさせるスィング感だ。そしてそこに乗っかる女性2男性1のコーラス(特にBlissとCarlaの女性二人)がなんともステキなのだ。ウクレレ、スティール・ギター、トロンボーンなどの楽器もなかなか楽しげなオチャラカさを醸し出していて本当に良い。NYから現れたハーモニースイングに是非酔いしれて欲しい。大大大推薦っ♪

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Mary Flower / Ladyfingers

■70年代からデンバーを拠点に音楽活動を続けるブルーズ風フォークのSSWメアリー・フラワー、気だるげだが妙に断定的な歌声が説得力あります。
■ルーツミュージックにしっかり腰をすえて乾いたドブロギターを弾きまくる彼女、レコ屋店頭ではブルーグラスやカントリーに括られていますが、このナゴみピッキングに隠されたフォーキーな渋さはマリア・マルダーやボニー・レイットなんかのファンにぴったりだと思います。
■フォーキーブルーズだけでなくジャグやアコースティックスイング、カントリーやジャズなどの風味もちらほら。一日中聴いて痛くなるアルバムです。

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Maria Muldaur / Classic Live!

■昨今再評価著しいマリア・マルダーの74年と76年のライヴ演奏が突然リリースされた。サンフランシスコのFM局の放送用ホールライヴである。いまさらながら驚くばかりである。
■ジャグバンド畑を歩き回り、ジェフ&マリアを経てルーツロックにたどり着いた当時のマリアの歌声はとても解放的で生き生きとしている。キュートな女性の魅力と、アーティストとしての自信が満ち溢れ、聴く者を引き込んでしまう。
■彼女の最も人気のあるファーストとセカンドの前後の録音だから、人気曲のオンパレード、Amos Garrettを筆頭にDavid Nichtern、John Kahn、Jeff Gutcheon、Mike Finneganらのバックバンドも今が旬!って感じ。後追いではあるが15年以上のマリアファンとしては、このアルバムの登場は2003年最大のプレゼントのひとつだった。大いなるアメリカを愛するためにはマリアははずせない。

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中島みゆき / 生きていてもいいですか

■この真っ黒な地に白抜き明朝の文字、ジャケだけでも救いようにありません。取り付くシマがありません。
「振られたての女くらい落としやすいモノはないんだってね」
「あんた何を賭けていたの、アタシの心はいくらだったの?」
「生きていてもいいですかと誰も問えない、その答えを誰も知っているから誰も問えない」
「私がそこで生きてたことさえ覚えもないねと町が云うなら、臨終の際にもそこは異国だ」
■まったく救われない、手を差し伸べることすら出来ない歌の数々。これに自分を投影して、カタルシスを感じられるのなら、かなり図太い心臓の持ち主だろう。もうまったく笑うしかないじゃん、ねえ。
■カラオケに「うらみ・ます」が入っているがこれを本気で歌う人っているのだろうか? 僕は歌うよ、手拍子入れて、合いの手入れて。。。そこまでしなくちゃ自分まで巻き込まれそうな不幸の数々。中島みゆきって人は、このアルバムを作るときに、何を訴えたくて作ったのだろうか? これで泣く事? 感動する事?? 「化粧」や「りばいばる」でカタルシスを感じる事はできるし「世情」や「時代」で考える事はできるし「歌姫」や「ファイト」に癒される事もある。しかし、このアルバムは何をしたいのだろう。。。?
■しかし、確かにいえることは、このアルバムの前「私の声が聞こえますか」〜「おかえりなさい」には愛情や正義を切望する歌が多い。しかしこれ以後は、他人を癒したり励ましたり、他人の不幸を悲しんだり、たとえ自分の不幸でも前向きだったり吹っ切れていたり、となんか変化しているのだ(むろんそうでないものもある)。
■「歌姫」や「ファイト」や「空と君とのあいだ」なんて、他人への応援歌はこれまでのみゆきには作り得ない。彼女は、このどうしようもない恨み節の塊のようなアルバムに、それまでの人生のつらさ、せつなさ、哀しさをすべて封印してしまったのかもしれない。そう思うのは僕だけだろうか?(オトシャベリより改稿)

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小沢健二 / Eclectic

■30代は無鉄砲でいられるほど若くなく威厳を持てるほど大人にもなりきれない微妙な年代だ。新人の顔をして人の輪に入り込めるほど自尊心が弱いわけでもなく孤独を楽しめるほど自分に酔えるわけでもない。
■オザケンの新譜Eclectic(取捨選択)を聴いた。大人になりきれない大人の淋しさ、深い水の底から天の光を見つめているようなそんな音だった。たんたんとした静かなリズムで冷徹を装う、とうとうと説得するような口ぶりで成熟を装う、なまめかしく輝く台詞で粋人を装う。しかしどんなに理論武装して強がってもやはり孤独は隠し切れない。
■数少ない彼の(新曲のための)ポートレイトからは弱々しくはにかむ少年の鬱屈した孤独感しか読み取れない。まだ少年のつもりなのか? 抑制されたビート、叙情的にメロディアスな旋律、まるで新美徳英かあるいは木下牧子のようなコーラス、そして溢れるくせに内容の少ない言葉。万に一つも新しいものが見当たらない、すべてが既に語り尽くされたような佳作の羅列だ。
■しかしそこには真実がある。すべて嘘で塗り固めなければならないほど傷つき困惑して、しかしそれを隠そうと無駄な努力を(無駄だとわかっていても)しなくてはいけない苦悩がある。少年のように挫折したことをおおぴっらに表現できない困惑は、大人と少年の中間で苦悩する半端者の遠吠えかもしれない。10年前には夢中に唄っていたブギーバック、いまは憧憬と感傷で満ち溢れている。そんな、成長過程の中途半端な感情を一枚に閉じ込めたこのアルバムはまさに名盤といっても差し支えないだろう。
■しかし、そんな苦悩を商売にしてしまうあたり、やはり30代は信じてはいけないのかもしれない。

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大瀧 詠一 / Niagara Moon

■日本に初めてセカンドラインを知らしめた一里塚にして、日本のポップス界の方向性を指し示したナイアガラサウンドの決定版。
■どの曲も大瀧オリジナルと思わせる位こなれており、彼の世界自体になっている。日本でもっともNOを自分の裡に吸収し肉としているのではないだろうか? 
■歌謡曲とNOという二つの異なる文化を完全に一つに纏め上げられるのは彼以外にいない。この音に惚れたらもう戻れなくなる、ルイジアナ行きの資金を貯めるのみだ。

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布谷文夫 / 悲しき夏バテ

■「ナイアガラ音頭」「レッツ・オンド・アゲイン」等で有名な布谷氏、73年発表の唯一のソロアルバム。再発されるたびに即廃盤となり、ヤフオクを賑わせているので興味を持った方は即入手したほうがいい。
■ブルースクリエーションからDEWを経て、ソロになったかと思えば、「新民謡歌手」になってしまった布谷氏、良くわからない男だがこのアルバムを聴けば、、、、、余計わからなくなる。あまりにスゴイ絶唱、あまりに熱くそして渋い歌声(というか喉を振り絞る感触)に唖然とさせられる。細野氏プロデュースの小坂忠の和製R&Bの名作「ほうろう」の1年以上前にリリースされた大滝プロデュース(監督)による和製R&Bの切り込み隊長のようなアルバムだ。
■朴訥なMCから突然ハイテンションになる#1、ディープなR&Bの日本語的解釈の#2や#4、大滝節全開の#3はNiagara Moonを髣髴とさせる。はっぴぃえんどのカバーである#5のあまりに熱い布谷の熱唱にバックミュージシャンの"福生エキサイティングソフトボールチーム"こと伊藤銀次率いる「ごまのはえ」や松任谷正隆、矢野誠氏らも次第についていけなくなっているようだ。そして弾き語りの#6以降は本当に布谷の独壇場。
■ナイアガラファン、和製ブルースファンでなくともこのアルバムは聴いていただきたい。70年代のはじめにこんな熱く、大真面目で、奇怪な音楽があったことを。

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Michelle Shocked / Captain Swing

■アメリカ南部はテキサス州ダラスの出身の女性シンガー・ソングライター。政治的な活動にも関わり、逮捕投獄されたという履歴からも、プロテクトソングが満載、なはずの彼女の3枚目はスイングアルバム。
■しかしただのスイングというよりはルーツであるブルーズ色が濃く出ていて、かっこうのJiveアルバムとなっている。語りっぽい部分の下卑た感じは本物のソレに近い!? ホームパーティにぴったりな一枚です。

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Medeski Martin & Wood / Combustication

■Medeski Martin&Woodが98年に出したCombusticationは本当にスリムなアルバムだ。自分たちの音楽がどう言うものかきちんと判っているのだろう。そしてその音楽の見せ方を心得ている。
■アルバムと、そのMixを中心としたミニアルバムCombustication Remixを使い分けてリリースしたところに、ファン層の二重構造(フリージャズファンとジャムファン)を見とおしたのだろう。
■そのようにすることで、一枚のアルバムがよそ見することなく目的通り作られる様になる。Jazzファンに向けては、インプロビゼーションを中心とした洗練された楽器のプレイを見せる、そしてEPではきちんと踊ることへの欲求を満たす作りをしている。
■そしてどちらも音を限定している。最小限の楽器と最小限の技術にて最大限のグルーヴを引き出す。そのシェイプされた姿勢こそ、JAMバンドとして認められた一因だろう。 (オトシャベリより改稿)

■左がアルバム、右がRemixです。



Medeski Martin & Wood / Friday Afternoon in the Universe

■「'91年に New Yorkで結成されたオルガントリオ」なんて書く必要ないくらい有名になって久しい。ジャムバンドシーンを引っ張り続けた彼らの方向性を決定付けたの95年のメジャーセカンドアルバムだ。
■デヴィッド・バーン、ラウンジ・リザーズらのサイド・メンバーとして知られるハモンドオルガンのJOHN MEDESKIを中心にチャック・マンジョーネ・グループやラウンジ・リザースで力をつけたBILLY MARTIN(ds)、そしてマーク・リボー、ジョン・ゾーン、ジャズ・パッセンジャーズなどと共演したCHRIS WOOD(b)。この3人が生み出すグルーヴはクールとかインプロビゼーションとかバップとかジャズファンクとか、そういう使い古されたキーワードだけでは語れない音楽性を持つ。
■熱く畳み掛けるような強烈なグルーヴと、「'90年代のELP」(評論家熊谷美広氏談)と言われるほどのプログレッシヴで緻密な即興(ニッティングファクトリー系というんだっけ?)が交互にそして渾然一体となってぼくらの耳をトリップさせてくれる。次作のShackManでDJ Logicを迎え、次第にヒップホップ味を増していく彼ら。そういう意味で、このアルバムは最もオルガンのアシッドさとファンキーさを聞き込むのに適しているだろう。90年代から21世紀のジャズ/アシッド/ジャム/グルーヴのシーンを理解するにはこのアルバムを知らなければ始まらない。

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New Order / Brotherhood

■アルバム名もクレジットもない。しかし、サンドストームのような荒れた画像のジャケットは無名性や拒絶を詠っているようにも見えて、脱産業主義的に思えた。「音楽は商売ではない!」と幼い事をいっていた高校生当時の自分には好感が持てたものだ。
■一曲目、スカスカの電気的ビートで始まるParadise、マイナーコードで延々と続くI Love Youのフレーズ。どんなに切々と訴えても届かないことが分かり切ってしまっていて、自分の無力感に絶望しながら一人ごちているような歌だ。このアルバムを買うきっかけとなった6曲目Bizarre Love Triangle。とても踊ることの出来るわけないマイナーメロディ。
■ビデオクリップ内で執拗に繰り返される青空の中のジャンプシーン、バーニーの鬱屈したボーカルのせいで、その透き通るような青空がなんと皮肉に映った事だろう。原爆の後の青空のようだ。このビデオほど、爽やかな空を否定できる映像はないかもしれない。そして「上手に出来ないからもう辞めた!」というような感じで唐突に終焉を迎えるこのアルバム、自分は何度聴いただろう。若者ゆえの諦観、自分勝手さ、自己愛、それらがいっしょくたになった焦燥感がこのアルバムには詰まっているように思えた。

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New Order / Power, Corruption & Lies

■存在すべきではなかったバンドNEW ORDERの83年の2nd。
■旋律についていけないボーカルと延々とリフを続けるだけのベース、指一本のたどたどしいキーボード、リズムマシーンなしではいられないドラム、すべてがお粗末極まりない中で作られた究極の素人作品。いや作品という程の完成度があるのだろうか、あるのは自己満足すらかなえられない排出物の堆積だろう。その中でただ一人ポップスターのように、Ho!と奇声をあげるサムナーの嘘っぷりはロック以外の何モノでもない。
■醜態をさらけ出すことで狂気と諦念の蓋が抉じ開けられ、魂が露呈した名盤。

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ムーンライダース / 最後の晩餐

■中年のロック。まさにこの言葉以外では表せない現存する日本最古のバンドの91年のアルバム。
■息子や娘が自分の思うようにならない男の悲哀、働き続けてふと振り返った家庭との距離に気付いた落胆、会社の犬という自分の醜態と対峙したくなくてそっと心を閉ざす孤独、女の子を満足させる自信がなくて自虐的に「脱ぎ捨てるためにある」自分を演じる情けなさ。。。
■どうしようもなく社会や制度や責任や愛情に押しつぶされそうになっている、決して「向こう見ず」が出来ない年代に入ってしまった情けない男たちの魂の叫びで満たされているアルバム。

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Mute Beat / FLOWER

■いまや音楽界に君臨するこだま和文・屋敷豪太・朝本浩文・宮崎"DUB MASTER X"泉がいた日本のスーパー"ダブ"バンドの87年のファーストフルアルバム。
■暑いです。こんなにシンプルな音数で淡々と、こんなクールにゆったりレゲエしてるだけなのに、灼熱の砂漠の中に独り取り残されているような焦燥感です。トランペットとリズムが脳みそをぐちゃぐちゃに溶かしていき、陽炎さえも見えてきます。
■今の若いクラブアーティストたちにこの暑さを是非体感して欲しいですね。そして少しでいいから本当の「オリジナリティ」ある音を目指して欲しいです。

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Ohio Knox / Ohio Knox

■朝、目覚めるとオハイオ・ノックスが流れていたらとてもいい一日になる。パーカッションもギターも歌声も優しいくせに、頭の中に入ってきて目覚めさせてくれる。決してまどろんでもう一度惰眠ということにはならない。まるで好きな女が朝食が出来たと言って起こしてくれるときのようだ。
■山下達郎や大貫妙子たち日本のシティポップスを生み出したグループ「シュガーベイブ」に多大な影響を与えたと男ピーター・ゴールウェイが伝説のバンド「フィフス・アヴェニュー・バンド」と(生まれながらの)ニューヨークを離れ、西海岸で共同生活を始めた仲間と'71年に作った個人ユニットがコレだ。一作で解散してしまったユニットだが、ボクはこのアルバムが一番好きだ。フィフスもいいし、この後の個人名義の作品もいい。でもこのアルバムには違った何かがある。
■それは開放感なのかもしれない。見知らぬ土地で今までのしがらみから解放された感じ。新しくはあるが、同じ志を持つ仲間たちとの共同生活で培われた信頼関係から生まれた音楽のアットホームな感じ。雑然としたNYとは違い、自然あふれる西海岸の太陽の下でピーターの心も日干しした布団のようにフカフカになったのであろう。初めて触れるリラックス感をエンジョイする余裕が感じられる。
■そしてそこから生まれた音楽は、聴くものも開放しリラックスさせてくれる。冷たい音の癖に温かい余韻を残すポール・ハリスのピアノと繊細なギターの上にピーターの楽しげなボーカルが乗っている曲がほとんど。その中には、今にも走り出しそうなアップテンポな曲もあるし、スイングできるようなジャジーな佳作もある。ブルーズもフォークっぽい曲もある。しかしそのどれもが同じような開放感と優しさで包まれている。色々な要素を包括した歌入りフュージョンやAORのような手触りすら感じさせる。爽やかだ。そして実に美しい。

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中西俊博 / Silent Romance

■不思議の国のヴァイオリン弾き・中西の2nd。自作の曲とチャップリン映画のテーマ曲を交互に演じている。ゆったりゆっくり弾きこまれる甘く優しいメロディに、遠い子供の頃の、母の胸の中で平和だった日々の戻っていくようで、気付けば枕を抱きしめて眠りに落ちてます。
■とにかく甘く、必要以上に優しいセンチメンタリズムを演出するには最高のアルバムでしょう。自作曲がチャップリンのものと違和感なく出来上がっているのがとてもいいです。

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Nashville Jug Band / Nashville Jug Band

■80年代ナッシュビルのブルーグラスシーンのアーティストたちが、すでに忘れ去られた「リバイバルジャグブーム」をリバイバルしようと集まった記念碑的アルバム。
■記念碑とはいっても気負ったところがあるわけじゃない。自分たちの好きな音を、好き勝手に演奏しているのだから楽しくないわけがない。聴いている側も思わずほくそえんでしまう。
■遠くから祭囃子が続いているのに、寝なくてはいけない子供がちょっとさびしいけどちょっと楽しい気分になってしまう。そんな音だ。これを聴いていると一人でいるのに孤独な感じがしなくなってしまう。



Natural Four / Heaven Right Here on Earth

■実は結構、バラードが苦手だ。メロディが苦手というよりもバラードの音構成が苦手なことが多い。たとえば最初にピアノかギターのナマ音とボーカルで始まり、途中でエレキとドラムが激しく絡んで盛り上げていく「Let It Be」タイプ。タイタニックやアルマゲドンのテーマなんかもそうだ。さあ泣いてくれ!と強要されてるような気がする。
■また、60年代MOTOWNを中心としたソウルバラード、モッタリしたストリングスを中心としたヤツだ。甘いひたすら甘いこれらのバラードも苦手だ。一曲ならまだいいが、大抵のボーカルグループって言うのはアルバム一枚バラードばかりだったりするわけで、すぐさま食傷気味になってしまう。
■そういう意味でNatural Fourの74年のアルバムHeaven Right Here on Earthはとても気持ちがいい。Curtis Mayfield設立のレーベル「カートム」のコーラスグループだ。70年代らしいメロウでスィートなメロディ。普通はモッタリしたストリングスで熱く唄いあげそうなところを、小気味いいリズムと淡々とした職人っぽいコーラスで軽やかに決めている。これじゃ泣けない。感情移入を強要しないばかりではなく拒絶している様だ。移入しようというリスナーの感情を、ひょいひょいっと軽くかわしていく。その軽味がメロディと音だけを客観的に楽しむことを可能としている。
■また、オープニングのHeaven Right Here on Earthを筆頭にCount On MeやBaby Come Onなどのミディアムも、アコギを中心としたナマ音っぽいタイトな仕上がりになっている。これがとてもオススメで、このグループの売りでもある。その軽く締まった清涼さが全体を緊張感のあるトーンに染めていく。小気味よくタイトで緊張感のあるアルバム、4人のバランスのとれたコーラスも伴って、とても気持ちいいアルバムとなっている。ディープな甘味よりも軽みを好むボクとしてはバラードはこうあって欲しいものだ。(オトシャベリより改稿)

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Marvin Gaye / Let's Get It On

■実はWhat's Goin' Onはあまり好みではない、もちろんすばらしい曲であるがLet's Get It Onほど僕の中に響かなかった。この曲は最初の温もりのあるギターの音を聞くだけで力が抜けてしまう。もうどうでもいい感じにある。たぶん、この曲をBGMにして女性を口説いても腰が立たないだろう(笑)。それくらい僕の力を抜けさせてしまう。
■この曲はアルバムの一曲目なのでこの後にも曲が続くが、それらは名曲なのかどうか判断がつかない。すでに僕の批評心が麻痺しているからだ(笑)。

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